村上正邦の「不惜身命」その15

●先入観が司法の目を曇らせたゴビンダさんの冤罪

 第38回目の「日本の司法を正す会」は、8月31日、「東電OL殺人事件」の冤罪を訴える客野美喜子さんと今井恭平さんをゲストにお招きしました。
 客野さんは、「無実のゴビンダさんを支える会」の事務局長として、今井恭平さんは、同会の中心的存在として、長年にわたって、ゴビンダさんの冤罪を晴らす活動をつづけておられます。

「東電OL殺人事件」は、容疑者逮捕、勾留、刑の確定にいたるまで、特異な経過をたどりました。
 冤罪というより、法務当局の不当な手続きによって、むりやりに有罪がつくりあげられたという印象さえうけます。
 1997年、東京都渋谷区の繁華街で、 東京電力の女性社員が殺害された事件で、ゴビンダさんに、容疑がかかりました。
 被害者は、売春婦というもう一つの顔をもっており、売春をとおして、ゴビンダさんと接触があったからです。
 ゴビンダさんは、殺人事件の犯人として逮捕され、裁判にかけられました。
 そして、三年にわたる公判の結果、東京地裁において、無罪判決をうけましたが、その後も、身柄は、拘束されたままでした。
 控訴した検察側が、裁判所にゴビンダさんの勾留をもとめ、最終的に、これがみとめられて、ゴビンダさんは、無罪になったにもかかわらず、再勾留されたのです。
 無罪確定後の再勾留(職権発動)は、たとえ、検察が上訴しても、あってはならない話で、げんに、東京地裁は、東京地検の要請を却下しています。
 すると、検察側は、こんどは、東京高裁へ勾留の要請をおこないます。
 東京高裁(第5特別部)も、検察側の要請を退けました。
 勾留は「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由」がある場合にかぎられます。
 ゴビンダさんの場合、3年間の審理の結果、無罪となっているので、これに該当しません。

 ところが、異変がおきます。
 検察側(東京高検)が3度目の要請をおこなうと、東京高裁(第4刑事部)が、あっさりと、再勾留をみとめてしまうのです。
 東京高裁控訴審の担当部が、第5特別部から、第4刑事部にかわって、すぐのことでした。
 東京高裁第4刑事部の部長は、高木俊夫という裁判官です。
 この人は、のちに、ゴビンダさんに逆転有罪(無期懲役/2000年)を言い渡す裁判長で、狭山事件の再審請求棄却(1999年)や足利事件の控訴棄却(無期懲役/1996年)をおこなったのも、このひとです。
 東京高裁の高木俊夫裁判官は、裁判長として、本件の他にも、最近、話題になった冤罪事件に、深くかかわっていたのです。

 高木俊夫裁判官の東京高裁(第4刑事部)が、ゴビンダさんの再勾留をきめた経緯をふりかえってみましょう。
 東京高裁控訴審の担当部署が、第5特別部から、第4刑事部にかわったのが2000年の5月1日で、東京地裁から三年間にわたる膨大な公判資料をうけとったのも、この日です。
 そして、翌5月2日に、再勾留を宣言しています。
 3年間におよんだ裁判の全記録をたった1日で読むことは不可能でしょう。
 東京高裁第4刑事部は、はじめから、ゴビンダさんの有罪をきめてかかっていたと思わざるをえません。

 そこから、日本の司法の欠陥が見えてきます。
 裁判官個人や担当部署の思い込みや見込みが、公明であるべき審理を歪めているのです。
 冤罪は、そこから、うまれます。
 7月21日付けの読売新聞によると、ゴビンダさんの再審請求審で、東京高検が、被害者の体から採取された精液のDNA鑑定を行った結果、ゴビンダさんのものではなかったことが判明したといいます。
 しかも、この精液は、DNA型が、殺害現場に残された体毛と一致したのです。
 被害者は、殺人がおこなわれた現場で、ゴビンダさん以外の男性と接触していたのです。
「被害者が(ゴビンダさん以外の)第三者と一緒に現場の部屋に入室したとは考えがたい」とした二審判決に、決定的な誤りがあったのです。
 もともと、二審の有罪判決は、重大な矛盾をかかえていました。
 2000年4月の一審で、東京地裁は「被害者が第三者と現場にいた可能性も否定できない」 として、ゴビンダさんに無罪を言い渡しました。
 ところが、同年12月の二審で、東京高裁(高木俊夫裁判長)は、「被害者が第三者と現場に立ち入った可能性は考えられない」と、一審とは逆の判断を示しました。
 逆転有罪とした根拠は、裁判官の心証と状況証拠だけです。
 そして、最高裁(藤田宙靖裁判長)がこれを支持して、03年11月、刑が確定しました。
 証拠がないので無罪が、裁判官の心証によって、証拠がないにもかかわらず有罪へ、変わったのです。

 刑事事件の場合、証拠は、捜査にあたった捜査当局が独占します。
 その検察が、物証を何一つあげることができなかったばかりか、読売新聞や弁護側によると、四十二点にのぼる不利な証拠を隠していたといいます。
 被害者の体内に残っていた精液のDNA鑑定などは、公判前に公表していれば、有罪判決がでなかったでしょう。
 検察側が隠していた決定的な証拠のなかに、被害者の口腔や胸から採取されたゴビンダさん以外の唾液があるといいます。
 もし、これが、ゴビンダさんのものだったら、検察は、新証拠として、よろこんで、裁判所に提出していたでしょう。
 ゴビンダさんのものではなかったので、開示を控えたというのでは、司法の公明さが、根本から、疑われます。

 盛り場における流しの犯行であれば、犯人検挙は、むずかしいでしょう。
 それでも、犯人を挙げられなければ、無能と批判されます。
 とくに、「東電OL殺人事件」では、被害者が、東京電力のエリート社員でありながら、日常的に売春をおこなっていた特異な人物で、マスコミが、過激な報道をくりひろげていました。
 警察・検察は、是が非でも犯人を捕まえ、一件落着としたかったでしょう。
「東電OL殺人事件」の場合、ゴビンダさんが犯人であることが、警察・検察にとって都合がよかったという事情がはたらいていなかったと、はたして、いいきれるでしょうか。
 この事件では、動機や証言、事実関係に、未解明な部分がすくなくありません。
 ところが、高裁は「未解明であるからといって、被告人の犯人性が疑われるという結論にはならない」と切り捨てています。

 裁判は、人間がおこなうものですから、かならず、まちがいがあります。
 司法改革の要は、このまちがいを避ける方法を用意することにつきます。
 憲法違反(「無罪とされた行為については刑事上の責任を問われない/39条」)の検察上訴を制限する一方、再審請求や被告人控訴、異議申し立てにたいして、第三者的な機関を設けて、審理の公明性を高めることが必要でしょう。
 仄聞するところによれば、検察側は、ゴビンダさんの再審請求に「意地でも負けられない」と徹底抗戦の構えといいます。
 何のための司法なのか、と暗然たる気持ちになります。
 ゴビンダさん再審については、また、ご報告の機会があるでしょう。合掌

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村上正邦の「不惜身命」その15 への4件のフィードバック

  1. 軸屋勝洋 のコメント:

    酷い話が有った物です。コビンダさンが
    北朝鮮の金正男なら、支那に飛行機で去る事が出来て
    支那の尖閣諸島漁船追突事件の船長なら祖国から
    迎えがきたのに、せめて国外追放処分に出来無かった
    でしょうか?近年、日本の法曹関係は病んでいると
    愚考します。

  2. 吉田卓朗 のコメント:

    村上先生
    私は民事裁判ですが、半世紀(昭和33,4年ごろから)半世紀以上争いをしております。
    事件の発端は、昭和34年ある土地家屋鑑定士の鑑定によって私たちの所有地が牛久市が管理する市道に越境しているとの誤った鑑定によるものです。その鑑定は測量上の基準点に旧公図の幅員(3.6M)を重ねたものです。私たちは幅員は旧公図の復員ではなく道路台帳に記載された幅員(2.7Mがその道路の最大幅員を記載されたものであるとの主張をしています。その後国土調査がおこなわれ各道路の各地点ごとに幅員がきさいされております。係争地内にも幅員が記載されており私たちの主張の2,7Mと記載されております。当然、裁判では口頭弁論になりません。東京高裁の藤村という裁判長もお手上げになっております。裁判長!この判決はデタラメじゃないか!!どうするのか!!の当方の叱責に“お解りでしょう”と言うばかりでした。当方の別訴ですか?の再度の追及に”お解りでしょう”でした。村上先生裁判所は既に崩壊しているのです。100%デタラメ判決を最高裁に突き付ける時が来ています。奴らが逃げられない判決を突き付け最高裁を司法被害者で取り囲む時が来ていると思います。奴らはただの犯罪者なのです。茨城の司法被害者より

  3. 吉田卓朗 のコメント:

    村上先生
    ゴビンダ裁判について
    裁判所は既に崩壊しております。奴らは我欲の為(天下り、出来レース裁判で銭儲け等)に暴走を繰り返しております。この裁判所の暴走を日弁連は知りながら頬被りをしております。これが問題なのです。デタラメ判決で再審の事由に該当する事件を日弁連は門前払いにしています。だから裁判所が暴走するのです。ゴビンダ事件は日本の腐り切ったインチキ裁判所ではDNA鑑定の証拠では通用しないと思います。私の”図面に2,7M記載されている復員”を3,6Mと認定するような犯罪組織なのですから。
    DNA鑑定の証拠を蹴飛ばすぐらいは朝飯前なのです。それ程までに司法は壊れているのです。

  4. 吉田卓朗 のコメント:

    村上先生
    裁判所、法務省は犯罪者の集団です。下記は柏市戸籍改竄財産乗っ取り事件です。裁判所、法務省と柏氏がグルになって個人の財産を乗っ取った事件です。法務省は戸籍の開示も出来ません。
    戸籍の開示は奴らの犯罪が発覚するからです。
    http://www.youtube.com/watch?v=mO6H4velBsM&feature=related
    江田法務大臣に上申書
    http://suihanmuzai.web.infoseek.co.jp/110614.jpg.html
     これでも法務省は戸籍の開示を拒否しています。この国は犯罪国家です。

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